コ ラム:誰のためのデザイン?

2022年1月4日(火)



写真の本は,米国の認知科学車のD. A. ノーマンさんが1988年に書かれた「The Psychology of Everyday Things(日常品の心理学)」の訳本で1990年に出版されたものです.もう20年以上前の学生時代に読んだ本ですが,不都合の中の好都合を考える上 で,改めて読み返してみると参考になることがたくさんあります.

その一つに,カフェテリアの椅子の例が紹介されています.人気のあるカフェテリアで,あえて快適でないもの を設置して,長居をさせないようにしたとのことです.まさに,不都合の中の好都合です.また,強制的選択法 というものが説明されています.物理的な制約で,何かを行う際にはそれを必ず行わなければならないといった ものです.車の鍵や非常階段の例,トイレの荷物置きの例が紹介されています.トイレの荷物置きの例では,荷 物置きを引き出して荷物を置くと,ドアと干渉してドアが開かないようになっており,荷物を置き忘れることを 防ぐことができます.子供が外にでないように,ドアノブを高い位置に取り付けわざと使いにくくするといった 内容も書かれています.デザインにおいて,こうした制約を利用することで,その時点での行為の幅を限定し, 何をすれば良いのかを簡単にわかるようにできるとのことです.しかしながら,こうした制約は時には面倒な面 もあるため,賢いデザインが重要であるとのことです.

また,コンピュータシステムにおいて,これまでユーザのためのデザインに熟達していない技術者やプログラ マーの手に委ねられていたとありました.現在,音声対話などの会話を通じて,コンピュータとインタラクショ ンすることが当たり前になってきています.今後,技術者やプログラマーは,より良い対話を実現するために, 接客の方法などを学ぶ必要がでてくるのだろうと思いました.

原著から内容はもう30年以上経過しています.現在の状況と見比べてみると,スマートフォンなどもそうです が,多くのものが,ノーマンさんの指摘のような良いデザインになっているように思います.また,25年後の 2013年に本書の増補・改訂版が出版されています.ビジネス世界のデザインなどが新たに追加されたりして います.

関連内容:「不都合の中の好都合」


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